「人生が変わる8泊9日」

 この夏合宿は、勉強をするわけでもありませんし、何らかの技術や知識の獲得を目指しているわけでもありません。「いったい何をしているのだ」と問われると一言で答えるのは難しいのですが、子どもたちが普段の生活では得られないものを――特に「今の」子どもたちにとってはより貴重なものを――この合宿では得ているのだと思います。

 「自分の頭で考え、行動する」ということがこの合宿でのテーマのひとつです。「そんなことは誰でもできるじゃないか」とおっしゃるかも知れません。しかし今の子どもたちのなかには、管理され、与えられ、決められたとおりにしか行動できない子も増えています。物心ついたときからテレビやスマホに親しんできた彼らは、何の苦労もなく大量の情報が与えられ、何も考える必要なくゲームや動画を楽しみ、自分で考えて行動するという習慣を失っています。

 ティニータイニーの合宿は、30年以上も変わっていません。長野県大町市の木崎湖のほとりに建つ「夏期大学」を借り切り、子どもたちが自分たちで生活をつくっていきます。テレビやスマホ、ゲームなどは禁止です。食事をつくることも、あと片付けや掃除や洗濯も、遊ぶことも、自分たちで考えて実行していきます。もちろん失敗することもありますが、それすら、彼らにとっては新鮮で貴重な体験です(今の世の中は大人が先回りして危険や失敗のないようになっていますから)。注意や工夫をしないと、おいしい料理はできません。「だまっていても親が作ってくれる」わけでも、「スマホで注文すれば届けてもらえる」わけでもありません。頭を働かせて、協力して作業して、そしてようやく食べられるものができるのです。そして子どもたちは、「何の苦労もなく、おいしいものが食べられる」ことも悪くはないけれど、「自分たちの頭と手を使ってできた変な料理」も素敵だと気が付きます。「自然の中で食べるとおいしい」とか「みんなで協力して作ったものはおいしい」と聞くと「そんなハズはない。誰がどこで作ったって味は同じだ。めんどうなことはしたくない」と言う人もいますが、そうではないのです。自然の中で、五感をフルに働かせて、作る過程も楽しみながら仲間たちと完成させたその料理は、そのときそこにいる人たちだけが味わうことのできる、特別な料理なのです。ことは料理に限った話ではなく、遊びにおいても、生きかたにおいても同じだと私は考えます。このような「特別」をどれだけ手にできるかが、豊かに生きていくということだと思うのです。

 この合宿のもうひとつのテーマは、「人との関わり方を学ぶ」ことです。ティニータイニーにおいて、私自身もすごいと思っているのが、「みんなで遊ぶ」ことができるというところです。男の子も女の子も、中1生も高校生も、みんながひとつの輪になって遊ぶという文化がここにはあります。年上の人間はみんなが楽しめるように工夫しますし、年下の子たちは年上を見て学び、吸収します。こういった光景も、普段どこででも見られるものではありません。日がたつにつれて、お互いが個性を発揮し、それを認め合う空気が生まれていきます。合宿ではスマホやテレビは禁止されていますが、ほどなくそんなものはこの生活に必要ないということに彼らは気付きます。そして、人と人がつくる場こそが第一に大切であり、ものごとの中心になるべきであり、その場をどのように生み出すか、どのように盛り上げていくか、自分はどのような役割を果たしていくべきかを学んでいくのです。

「人と関わることが楽しい」「人をおそれなくてよいと分かった」「人の良さを見つけることができた」こんなふうに思えた子は、自分に自信を持つことができます。自分にも長所があることに気づき、人の役に立てるようになりたいと思えるようになります。そうして心を開ければ、勉強など日々の生活においても前向きになっていけるのです。はじめに「人生が変わる」と書きましたが、けっして大げさではなく、この合宿をきっかけにして変わった生徒は大勢います。以下では合宿について書かれた生徒の作文を紹介しますので、それを感じていただけたら幸いです。

 

「変化」 町田一中(当時中3)M.Kくん

・・・二年生のときは本当につまらなくて、自分の雰囲気も暗かったり、いらついてる感じだったと思う。でも今の三年生では去年と違って学校も楽しいしT.Tにも大分なれてきて、自分自身の雰囲気も明るくなっている気がする。たぶんここまで変わることができた一番の理由は、T.Tのおかげだと思う。その中で深く言うなら去年の合宿のおかげだと思う。その中で深く言うなら去年の合宿の評価のおかげだと思う。去年の合宿の記憶はそんなに覚えてないけれど、評価が最悪だったことは覚えてる。それを頑張って良い方へと直したいと思えたから変われたんだと思う。T.Tにもし来てなかったら多分去年とそんなに変わらなかったと思う。最初は勉強のために入った塾だったけれど、いろいろとそれ以外にも学校や友達とだけでは経験できないことを経験することができた。その経験のおかげで今の自分があるんだと思う。大きく言えば去年の最悪な二年生の年があったから、今の楽しい三年生の自分がいるんだと思う。

 

「合宿」 薬師中(当時中3)K.Kくん

 ・・・学校の夏休みの宿題のあまりの多さに、一度は行くのを諦めようかと思っていた夏合宿だが、おもしろくない日常から離れられるかもしれないと考え、行くことに決めた。

 夏期大学へ向かう電車の窓から外の景色を眺めているだけでも、どたばたしている日常から遠ざかっていくような気がした。

 しかし、いざ夏期大学に着くと、別の現実が自分を待っていた。

 事前にいろいろ話を聞いていたとは言え、初めてのことが多過ぎて戸惑った。

 中二とは顔を合わせるのがほとんど初めてだったし、高校生ともまだ完全に打ち解けていたわけでもなかった。これから八泊九日、この人達とどうやって過ごしていくのだろうと心配になった。

 しかし、そんな心配とは裏腹に、高校生のみんなは優しかった。ずっとだまりこくっている中学生に、積極的に話しかけてくれたり、トランプやT.Tの遊びに誘ってくれたり、その中で、僕達中学生は、どんどん打ち解けていくことができた。

 自由キャンプでも、初めてのキャンプにしてリーダーを務める僕達を、優しくサポートしてくれて、本当に助かった。

 一回目の自由キャンプのとき、僕は一人でたき火に当たっていたら、一つの疑問が浮かび上がってきた。

「自分は今までの人生で、これほど深く家族以外の人と関わってきただろうか」

 よくよく考えてみると、中二のころは確かに周りの人とたくさん話をしていたが、それも本当は上辺だけのもので、それが楽しいと思えていなかった。中三になってからの自分は、心から他人と打ち解け合うことを望んでいたのだ。そしてこの合宿に来ることで、僕はその願望を達成することができたのだ。(後略)

 

「初めての合宿」 町田一中(当時中1)S.Kさん

 私は今年、初めて、中高生夏合宿に参加しました。なぜ参加したかというと、せっかくの行事だし、思い出にしようと思ったからです。でも、不安はやはりありました。上手く話せるかな、とか、そもそも友達できるかなとしんぱいでした。でもこのTTでは、上手く話せるかなど心配しなくてもよかったのです。どっちかというと、心配するスキも与えないほど楽しくて、不安なんぞいつの間にかどこかへ消えてしまうほどでした。

 その中で、私はこう思うようになりました。

「ここは、私を必要としてくれる、とても居心地の良い場所だ。」

 なぜそう思ったかというと、学校では『全体』で何か目標を達成させたり、『全体』で作業したりすることがいいと思っていて、ひとりひとりを見てくれる機会が少ないから、ゆえに、自分が求められていないと思ってしまうからです。でも、TTは違いました。夏合宿の中で、どんな人からも必要とされることがどれほど心地よいことかと、初めて感じました。

 『必要』は、『信頼』です。そしてTTのみんなが持っている『信頼』は、外っ側だけのものなんかじゃない、中身のぎっしりつまったとてもいいものです。そんないい『信頼』を持った仲間と過ごした八泊九日間は、思い出になっただけではなく、私の大きな自信となりました。

 十三年生きてきた中で、一番良い経験になったんじゃないかな、と今改めて思ったのは、本当に本当です。もちろん来年も参加しようと思います。私を必要としてくれた人に感謝の気持ちが止みません。三年生になって合宿に参加したとき、来てくれた人をこのような気持ちにできるように精いっぱい努力しようと思います。これからもずっとよろしくおねがいします。

 

「本当の自分」 南大谷中(当時中3)T.Kさん

 私は最初、正直に言うと合宿に参加したくなかった。なぜかと言うとまだ塾に入ってから数ヶ月しかたってないし、私は人見知りだから皆と話せるかが不安だったからだ。他にも私は人前でご飯が食べられないからご飯が全部食べられるのか不安だった。でも一番の不安は、本当の自分を出せないことだ。

(中略)

 一日目、二日目は全然皆と話せなくて、正直に言うと、帰りたいとずっと思っていた。自由キャンプ一回目の夜に「本当の自分出しても大丈夫かな?」と相談したら、「T.Tの人は優しいから受け入れてくれるよ!」と言ってくれた。私は次の日から本当の自分を出してみようと思った。でも急に出すのははずかしかったから、ちょこちょこだすようにした。本当の自分を出してみたら「え?」と引かずに、ノリとかのってくれて受け入れてくれた。自由キャンプ二回目の日から本当の自分が出せていたし、いろんな人と話せていた。一日目とか二日目とくらべると、こんな数日間で自分を出すのは自分でもおどろいている!

(中略) 

 私はこの塾に入って合宿に参加してとても自分が変われたなと思った。もっとここの塾に早く入っとけばよかったと思った。

 私を変えてくれた皆にとても感謝している。

 

「変われた自分」町田一中(当時中1)H.Sくん

 僕は正直、合宿に行きたくはなかった。そもそも八泊九日間も東京にいなくなることや、事前集合日にも会ったこともない人が多く、「泊まる場所ではなじめるか」「みんなと仲良くできるだろうか」と不安が込み上げてくる。

(中略)

 そう考えながらも当日をむかえた。駅前には知っている人がおらず、「もう帰りたい」と思っていたら仲間が集まってくると不安が急になくなった。そんなことも気にせず稲尾につくと不安なんて忘れてもう楽しくなっている。久しぶりに見る自然が豊かな所は林間学校に似ていて楽しさがそこから来ている。

(中略)

 この合宿では人と話すことやかかわることが苦手だった僕を変えてくれた。学校のほうでも話さなかった人と話せるようになったり、自分から話しだすようになれた。こんなに自分が変われるとは思いもしなかった。でも僕が変われたのはみんながいたからだ。本当の仲間の大切さを実感できた。来年もみんなで合宿をしたい。それが僕の思う今一番したいことだ。


★一生の仲間ができる合宿

このように充実した日々を共に過ごした仲間とは、ティニータイニーを卒業しても、大人になっても、わかりあえる仲間でいられることがほとんどです。卒業生が素敵な大人になって訪ねてきてくれることもたくさんあります。聞けば、いまでもかつての仲間たちと会ったり遊んだりしていると言います。ですからティニータイニーでは、とにかく高校に受かればいいということではなく、ともに人生を歩んでいく仲間として、子どもたちと接していきたいと考えているのです。